全く同じ条件下での同種粒子と異種粒子の拡散におけるエントロピー変化の違い

物理

理想気体のエントロピー(粒子数にも依存)

$$S(U,V,N)=\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

(※U0、V0、N0、S0は基準点での値です)

を用いて、2つの孤立系において壁を取り払った結果実行される

①同種粒子の拡散

②異種粒子の拡散

のそれぞれについて書いていこうと思います。

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設定

二つの孤立系があり、それぞれには同じ粒子数(N)で、すべて同じ質量(m)の粒子があります。また、内部エネルギーも二つの孤立系で等しいとします。つまり、孤立系はどちらも全く同じ状況にあります。

この平衡状態にある二つの孤立系を接触させ、それを隔てる壁を準静的に取り除くことでエントロピーがどう変化するのかを問題とします。

同種粒子と異種粒子の場合どちらも設定は同じで、ただ一つ異なるのは文字通り「粒子の種類」です。この種類の違いがエントロピーにどういった影響を及ぼすのでしょうか?

同種粒子の拡散

定性的に考える

同種粒子が全く同じ状況で二つの孤立系があり、それの壁を取り除きます。同種粒子はそもそもそれぞれの孤立系で拡散されていますから、壁を取り払ったところで、結局全体に拡散されてもマクロに見れば全く同じ状況だと考えられます。

例えば水槽が二つあり、それぞれには全く同じ状況(温度や量などが同じ)の水が入っているとします。この水槽をくっつけて、隔てる壁をとり除きます。そして十分長い時間が経ってから再び壁を入れても二つの水槽の状況はマクロに見て全く変わらないことが想像できます。

したがって、同種粒子どうしでは壁の抜き差しは可逆的であることが想像でき、また今は孤立系を相手にしていることから、この変化は断熱準静過程だと考えられます。

断熱準静過程では、エントロピーは不変という性質を用いれば、

$$\delta S=0$$

だと定性的に予測することができます。

定量的に考える

$$S(U,V,N)=\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

この式を用いて計算していきます。

変化前

孤立系の一方を系A、他方を系Bとします。

この二つの系は全く同じ状況にあることから状態量は等しく、したがってエントロピーも等しくなります。したがって

$$S_{A,i} =\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

$$S_{B,i}=\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

となります。

※Sの添え字である(A,i)は、系Aの最初の(initial)状態という意味です。

よって変化前の全系のエントロピーは、エントロピーの示量性より和をとればよくて

$$S_{tot,i}=2\times[\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]]$$

となります。

変化後

壁を取り除くと、同種粒子同士が混合されます。この同種粒子の混合というところが肝です。同じ平衡状態にある同種粒子を混合したところで全く状況は変わらず、ただ単にその粒子が一つの孤立系に閉じ込められた状況になるのが分かると思います。

つまり、先ほどの例えを使えば、水槽の壁を取り払うことで今まで別々だった水槽の水の体積や粒子数といった状態量(示量的なもの)が2倍になり、一つの水槽(AとBが合わさり体積が2倍となった水槽)だけ考えればよくなります。

エントロピーの式を考えるときは、示量変数を2倍にして、系は1つだけなのでもとから全系を考えていることになるので

$$S_{tot,f}=\frac{2N}{N_{0}} S_{0} + cR(2N) log[(\frac{2U}{U_{0}}) (\frac{2V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{2N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

となります。この式の計算を進めると

$$\begin{eqnarray}S_{tot.f}= 2\frac{N}{N_{0}} S_{0} + 2cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}} \times 2\times 2^{\frac{1}{c}} \times 2^{-\frac{c+1}{c}}]\\=2\times[\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]]\end{eqnarray}$$

となります。これが変化後のエントロピーです。

結論

以上で計算した変化後のエントロピーと変化前の全系のエントロピーを比べると

$$S_{tot.f}=S_{tot,i}$$

が成り立つことが分かります。したがって、エントロピー変化は

$$\delta S=S_{tot,f}-S{tot,i}=0$$

が導かれます。定性的な考えの時と同じ値がでました。

この結果から、(同じ条件にある)同種粒子の混合では全系のエントロピーの変化は起きず、したがって壁を取り除く作業は断熱準静操作だと言えます。

異種粒子の拡散

定積的に考える

今度は粒子数や内部エネルギー、粒子の質量といったパラメーターは同じだけれども、系Aと系Bで粒子の種類が違う状況です。

先ほどは同種の粒子同士ということで、同じ水が入った水槽を二つくっつけるといった例えを使いましたが、今回は異種の粒子同士なので、例えとして水槽に入っているのは二つの別の液体だと考えます。

例えば水槽Aに入っているのは赤色の液体、水槽Bに入っているのは青色の液体だとしましょう。これらは色が違うだけです。

同様にこれらの水槽をくっつけてみましょう。壁をとり除いて十分な時間が経つと、それぞれの色の液体はくっついた水槽全体に拡散し、全体として液体は紫色になるはずです。この時壁を元に戻しても、水槽Aと水槽Bにはともに紫色の液体が入っている状況となります。したがって、同種粒子の混合の時のようにはいかず、壁をとり除いて十分時間が経ってまた壁を戻した場合は系の状況が変化しています。

これを系Aと系Bという二つの異種粒子の孤立系に当てはめれば、この壁を取り除くという操作は不可逆過程だといます。孤立系という条件も考慮すれば、この操作は断熱(不可逆)過程だと考えられます。なので全系においてエントロピー増大則が適応できることが分かります。

したがって、定性的に考えればエントロピーは増加する

$$\delta S \gt 0$$

という不等式が成り立つと考えられます。

では、以下で定量的に見ていきましょう

定量的に考える

変化前

変化前の系A、系Bは共に同じ状況にあるので、エントロピーは同種粒子と時と同じです。

$$S_{A,i} =\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

$$S_{B,i} =\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

よって

$$S_{tot,i} =2 \times [\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]]$$

となります。

変化後

同種粒子の場合と異なるのは壁を取り除いた後です。同種粒子の場合は一つの種類の一つの系(体積が2倍になった系)に考えを帰着させることができました。しかし、異種粒子の場合はそうはいきません。変化後も二つの種類の粒子それぞれ追わなくてはいけません。系は体積が2倍になった系を考えます。

したがって、この問題の同種粒子と異種粒子によって考えに差が出る要因としては「変化後の粒子をひとまとめにして考えられるか(同種)、それともそれぞれを独立したものとして追う必要があるか(異種)」だと考えられます。

まず系Aにあった粒子から考えます。系Aにあった粒子は壁が取り除かれることで体積が2倍になった系で拡散することになります。それ以外の条件は同じです。すると系Aのエントロピーは

$$S_{A,f} =\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{2V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

だと考えられます。

Bも同じです。体積が2倍となった孤立系の中で拡散するので

$$S_{B,f} =\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{2V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]$$

だと考えられます。

つまり、全系のエントロピーは

$$S_{tot,f}=2 \times [\frac{N}{N_{0}} S_{0} + cRN log[(\frac{U}{U_{0}}) (\frac{2V}{V_{0}})^{\frac{1}{c}} (\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]]$$

と求めることができます。

結論

以上で求めた変化後の全系のエントロピーと変化前の全系のエントロピーの差が求めたい値だったので引き算します。その前に引き算しやすい形に変形しておきます。

$$S{tot,i}=2\frac{N}{N_{0}}S_{0} +2cRN log[(\frac{U}{U_{0}})(\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]+2RN log[V] -2RN log[V_{0}]$$

$$S{tot,f}=2\frac{N}{N_{0}}S_{0} +2cRN log[(\frac{U}{U_{0}})(\frac{N}{N_{0}})^{-\frac{c+1}{c}}]+2RN log[2V] -2RN log[V_{0}]$$

これらより、

$$\delta S=S_{tot,f}-S_{tot,i}=2RN log[2V]-2RN log[V]=2RN log2 \gt 0$$

と求めることができます。やはり定量的な考えの時と同じ不等式になっていることが分かります。

この結果から、(同じ状況にある)二つの異なる種類の粒子の混合においてはエントロピーが増加するということが分かりました。

全く同じ状況でも、粒子の種類が同じか違うかでエントロピーが増加するかしないかが変わるなんて面白いですよね。

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